星雲賞参考候補作品を評すの記

 引き続き、今年の日本SF大会の参加者の投票で決まる、第36回星雲賞の各部門の参考候補作品について。

*日本長編部門
 私の既読は「ARIEL」「復活の地」「空の中」「All You Need Is Kill」「新・地底旅行」、未読は「膚の下」「パンドラ」「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」で、トータルスコアは五勝三敗でした。 
 谷甲州神林長平といったベテランから有川浩桜坂洋といったライトノベル系の若手までに加えて、純文学の(でも書いているモノは紛う方無きSF、それも今回はヴェルヌのパロディ)奥泉光まで入ってる、目配りの利いたいいラインナップだと思います。
 個人的な予想は今が旬の小川一水の「復活の地」と20巻完結の笹本祐一「ARIEL」の一騎打ち。でも「膚の下」「パンドラ」もSF保守本流として(?)固定票を集めそう。
 去年の日本長編部門は「第六大陸」「マルドゥック・スクランブル」「イリアの空 UFOの夏」がまれに見る三つどもえのデッドヒートを繰り広げたそうですが、今年も結構競り合いになるかも知れません。

*日本短篇部門
 既読は「象られた力」一作で、あとは未読の一勝七敗。SFマガジン定期購読していないとこんなモノかなあ。
 予想としても同様の理由で「象られた力」が一番に来そうですが、もう一作同じ飛浩隆の「ラギッド・ガール」が上がっているので、そっちと票が別れるかも。あとは作家の勢いで小川一水「幸せになる箱庭A happy idiot's universe 」と冲方丁「日本改暦事情」がどのくらい票を伸ばすか。

*海外長編部門
 既読は「万物理論」「奇術師」「ケルベロス第五の首」、未読は「犬は勘定に入れません??あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」「白い果実」「地球間ハイウェイ」、読みかけが「エンベディング」で三勝三敗一引き分けの五分の星。
 参考候補作そのものが不作だった第35回と違って、いい作品の翻訳が相次いだのを反映して好レースになりそうです。
 本命がグレッグ・イーガン万物理論 」で、対抗馬が国書刊行会未来の文学」シリーズを代表してジーン・ウルフケルベロス第五の首」、僅差でコニー・ウィリス犬は勘定に入れません〜」とクリストファー・プリースト「奇術師」かな。

*海外短篇部門
 既読が「最後のウィネベーゴ 」「アジアの岸辺 」「ふたりジャネット」、未読が「ニュースの時間です」「アイスドラゴン」「アメリカの七夜」「名犬クランキー」「ツーリスト」の三勝五敗。
 オリジナル翻訳アンソロジーがあれだけ活況を呈したんだから、もう少しそれが反映されてもいいと思うのに、気がつけば結局例年同様、SFマガジンの愛読者投票みたいになっているのが大いに不満です。ケリー・リンクスペシャリストの帽子」あたりも本来なら上がってきてもいいと思うし。
 本命でトマス・M・ディッシュ「アジアの岸辺 」、対抗馬がテリー・ビッスン「ふたりジャネット」・・・ってどっちもこの日記で書いたやつだっけ。

*メディア部門
 全部視聴したのが「イノセンス」、飛び飛びに視聴したのが「鉄人28号」「プラネテス」「 鋼の錬金術師」「ASTRO BOY 鉄腕アトム」(テレビシリーズを通して見る余裕がないんですよ)、未視聴が「雲のむこう、約束の場所」「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」だから一勝二敗四引き分け(・・・なのか?)。
 コミック版とはあえて違った作りを試みて成功している「プラネテス」を一番に推しますが、コミック版の方で既に一度受賞している(しかも曰く付き)のが弱みかも。対抗は「ほしのこえ」の時の票が生きていればと仮定して「雲のむこう、約束の場所」。「イノセンス」は、既に日本SF大賞を取ってしまっているので、こっちでの受賞はきついかな。
 個人的にトールキンは苦手なので、「指輪物語」がファンタジー系の組織票で二年連続受賞しちゃうのは勘弁して欲しいです(でもありがちだけど)。

*コミック部門
 既読が「ブレーメンII」「凹村戦争」「砲神エグザクソン」「 愛人 -AI・REN-」、未読が「ジョーカー」シリーズ(厳密に言うと最初の一巻だけは読んでいるんだけど)、「ムーン・ロスト」(これも雑誌連載中に何度かは読んでいるんだけど)「絶対可憐チルドレン」の四勝三敗。
 ラインナップ的には短期連載の椎名高志絶対可憐チルドレン 」や、作者が成人向け美少女漫画出身なので色眼鏡で見られがちな田中ユタカ「 愛人 -AI・REN- 」(でも佳作です)を拾えているあたりを買います。
 個人的予想として、意外や今時ないおおらかでまっとうなスペース・オペラだった川原泉ブレーメンII」を本命に、これもある意味まっとうなSF漫画として星野之宣「ムーン・ロスト」を対抗に上げます。ただし、SFファンダムの「狭さ」や「Jコレクション」の肩書きが有利に働くと、西島大介凹村戦争」が上位に来るかも知れません。

*アート部門
 いつも思うんだけど、アート部門の参考候補の定義って何なのですかねえ、イラストから漫画からアニメのキャラクターデザインから本の装丁まで何でもありだし、時期的なものも他の部門ほど確たる定義が無い分、何でこの人が候補になるのか理由付けが曖昧なことが多いと思います。現に他部門とのダブりも多いし。これに関しては勝敗判定不能
 個人的には、そろそろもらってもいい村田蓮爾をトップに、河出書房新社奇想コレクションのカバーで大活躍した松尾たいこを二番手に推しますが、コミック部門と同じ理由で西島大介も票を集めそうな気がしますし、「ほしのこえ」の時みたいに新海誠がダブルで受賞するかも。

*ノンフィクション部門
 既読が「前田建設ファンタジー営業部」「ライトノベル☆めった斬り!」「トンデモ本?違う、SFだ!」「おたく:人格=空間=都市」、未読が「SF雑誌の歴史パルプマガジンの饗宴」「ファンタジーの歴史ー空想世界」で四勝二敗。
 個人的には「バカSFこそSFの本道だ!」と豪快に主張した山本弘トンデモ本?違う、SFだ!」を本命に、
NHKでまで紹介された国内凱旋展のインパクトで「おたく:人格=空間=都市ヴェネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展−日本館出展フィギュア付きカタログ」を対抗に、穴馬として、ライトノベル評論本ブームの中でライトノベルを日本SFの流れの中に位置づけて考察した大森望三村美衣ライトノベル☆めった斬り!」を推します。あ、あと大穴で、去年の大会で企画が大受けだった(らしい、見られなかった)「前田建設ファンタジー事業部」。

*自由部門
 折角、他のどのジャンルにも属さないものにあげられる賞としてスタートした「自由部門」なのに、今回は候補が他部門と微妙に被っているのがちょっと残念です。
 ただ、国立天文台の「有名望遠鏡ペーパークラフト」だけは存在そのものを全く知りませんでした。こういうのを拾ってくるあたりはさすがかと。
 この部門に関しては予想は控えます。

 何だか予想なんだか個人的願望なんだか書いているうちに分からなくなっちゃいましたけど、今年も面白い賞になるといいですね。
 とりあえず発表までに、本になっている分の未読作品だけでも読んでおかなくちゃ。