司馬遼太郎「尻啖え孫市」

yazka2005-04-17

(角川文庫)
 はっきり言って天下国家を語りたがる時の司馬遼は大の苦手ですが、こういう飄々とした人を喰ったようなヒーローを書かせると、やはり巧いです。暇つぶしのつもりで読んでいたら、いつの間にか600ページ以上のボリュームを一気に読んでしまっていました。
 主人公は、戦国時代の最新鋭兵器・火縄銃のスペシャリスト集団、紀州雑賀党の頭目雑賀孫市です。自身も鉄砲術の名手で腕っ節も強く、おまけに天才的な戦術家。それでいて無類の女好きで、欲や権勢のためには動かなくとも、惚れた女のためなら天下を敵に回しても戦ってしまう男でもあります。
 何せ小説の書き出し三行目には「いやもう、傍若無人」と書かれてしまうほど、常識破りで人と人とも思わないやつ、しかもそれでいてどこか優しさがあって、人を引きつける男です。
 そんな男が、京都で見初めた「信長の妹姫」をモノにするために岐阜の城下にふらりと現れてから、その信長相手の石山本願寺での知略の限りを尽くした戦いを経て、齢四十で紀州風吹峠で姿を消すまでを、木下藤吉郎との男の友情も交えながら、豪快に描いています。
 いや面白い。これ、映像化できないかなあ。映画にしたらかなり面白いものが出来ると思うんだけど・・・(勿論その予算があればの話)。
 ともかく、エンタテインメント作家としての司馬遼太郎の実力を改めて感じてしまいました。