テリー・ビッスン(中村融 編訳)「ふたりジャネット」

河出書房新社 奇想コレクション
 まとめて読むのは初めてだったけど、いやあ面白いわこの人。
 どの短編も、話の核になるのは「熊たちが『火』を発見する」とか、「イングランドがある日突然大西洋へ航行し始める」とか、「アメリカの田舎町にサリンジャーだのアップダイクだの著名な文学者ばかり次々に引っ越してくる」とか、とんでもない不条理なほら話ばっかりです。でもそれと平行する形で、(概ね)しょぼくれた主人公のさえない日常が淡々と、リアリスティックに描かれていて、その対比が何とも言えないペーソスを感じさせてくれます。
 一番面白かったのが巻末の「万能中国人ウィルソン・ウー」シリーズ三部作。語り手役の弁護士の身の回りに奇々怪々な出来事が起こるたびに、毎回摩訶不思議な方程式を駆使して説明しちゃう天才科学者ウーのキャラクターがナイスです。

 これは既刊の「世界の果てまで何マイル」と「赤い惑星への航海」(いずれもハヤカワ文庫)も探して読みたくなったなあ。