荻原規子「樹上のゆりかご」

理論社
 古代日本を舞台にした「勾玉」三部作や架空世界が舞台の「西の善き魔女」シリーズなどで知られる日本のファンタジーの第一人者の、これはちょっと珍しい現代物学園ミステリー。ただし私はミステリーの良い読者ではないので、ミステリーとしての出来がどうかは判断しかねます(第一、犯人途中ですぐに解っちゃうし)。
 むしろ、作者の主人公としては消極型のヒロインが、元旧制高校で男女比が3対1という男子上位の文化の中で葛藤しながら、自分の立ち位置を見つけていくまでの微妙な心理が描かれている事の方が面白く読めました。この辺「西の善き魔女」の隠れたテーマと通底するものを感じます。
 ひょっとしたら作者の荻原さん自身の自伝的な要素のたぶんに濃い作品なのかも知れません。そう言えば主人公の「上田ひろみ」という名前は、以前荻原さんのファンタジー小説「これは王国の鍵」で使われていた名前でした。